心理学系大学院へ行こう

“心理学系大学院へ行こう”では、主に大学院入試対策向けの参考書や受験のための知識を紹介しています。卒論対策にも一読ください。 さらに, 研究者になるにあたって役立ちそうな記事も掲載しています。psychology_ganbaru

心理学統計入門(講談社サイエンティフィク)

一応,★五つ。


心理学統計入門 わかって使える統計法
講談社サイエンティフィク 板口・森(著)★★★★★

本書の最大の特徴は,「わからなくてもいいから,とりあえず覚えておけ」という部分と,「しっかりと原理と仕組みを理解する」ための解説が分かれているところです。章立ては,3部構成(ステップ1〜3)。ざっくりと概念をつかんで,「使用」できるようになってから,中身を理解するという方針です。

学部の1年生や2年生で学ぶ,心理学統計の基礎はステップ1で解説されています。ここでは,統計的仮説検定の概念や,t検定,分散分析,相関係数までを,具体例や図をもとに,数式なしで解説しています。要点が置かれているのは,検定の手続き,結果の記述の仕方や,出力の解釈の仕方であって,数学的な仕組みの話は基本的には出てきません。統計がまったくわからない・数式など見たくない人向けに書かれているので,わかっている人には退屈かもしれません。このレベルの説明が不要なヒトは,ステップ1は飛ばしても良いでしょう(と前書きにあります)。

ステップ2では,ステップ1と同様に,統計的仮説検定の論理,t検定,分散分析,相関係数を扱います。ステップ1と異なるのは,数学的な仕組みまで言及しており,実際のデータも扱う点です。自習用にRのスクリプトもついているのですが,むしろ自身でおこなう実験などでt検定,分散分析,相関係数を使う場合には,これを改変・コピペするという使い方が有用かもしれません。

説明には数式が出てきますが,数式を出して終わりというわけではなく,数式の説明がくっつきます。このあたりが他の教科書と大きく異なる点かもしれません。特に,数式に対応する日本語の式も載せられているので,数式嫌いにも,耐えられるようになっています。もちろん,日本語での説明はどうしても厳密ではなくなってしまいますが,検定統計量の変動の仕組みを知るという目的のためには,十分です。

ステップ3では,いわゆる普通の教科書的な(少し難しい)解説が出てきます。このあたりは,検定の使用・運用とは直接関係のないトピックも含まれます。その大体の内容は,普通の教科書では,最初の部分に登場するものです。たとえば,従属変数の尺度や,正規分布標準偏差・誤差の数学的な説明などです。本書ではスタンダードな統計的検定の仕組みの理解に重点を置いているため,このあたりの”知識”を後回しにしています。知識を先に入れたい,という方はステップ3を先に読むということもありでしょう。

本書は,心理学統計を正しく運用するための理解をもたらしてくれます。統計検定の仮定といった理論的な部分と,実際の運用に関するところまで,バランスよく含んでいる良書だと思います。学部生だけでなく,大学院生や研究を行っているけど統計ニガテ,な人(臨床の方など)にも有用でしょう。