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超簡単・心理統計の基礎2 統計的仮説検定

2.統計的仮説検定
母集団とサンプリングについては,別で解説します。ここでは,仮説検定の手順のみについて説明します。

統計的仮説検定の手順
心理学実験の目的は,なんらかの要因(独立変数)によって,なんらかの従属変数が”影響を受けた”こと,つまり,独立変数を操作することによって従属変数に「差(ばらつき)が生まれたこと」を示すことです。
そしてこの差が,サンプリングによる「偶然ではない差」であることを保証するための方法が,統計的仮説検定です。

対立仮説と帰無仮説
統計的仮説検定では,自分が主張したい仮説を対立仮説,その逆を帰無仮説として設定します。主張したい仮説はさておき,なんで逆の仮説をつくるのかというと,対立仮説にかんしては,いい感じの計算ができないからです。

対立仮説が「新しい指導法には効果がある≒新しい指導法と古い指導法には差がある」としたときの帰無仮説は,
「新しい教授法には効果がない≒新しい教授法と古い教授法には差がない」となります。

帰無仮説は文字通り,無に帰してほしい,否定したい仮説です。統計的仮説検定では,帰無仮説を棄却すること≒「こんな仮説が成り立つ確率はほぼない!」ということを示すことで,「じゃあ仕方ないから,逆(もともとの)の仮説が正しいってことにしておこうか」と結論するのです。

もう少し噛み砕いてみましょう。帰無仮説を立てるという作業は,「もし要因の効果が無かったとしたら」と考えてみることです。そして,今回のデータにおいて,「本当は効果(2群の場合には差)がない」確率はどんなものかね,と数学的な計算をしてみます。その確率が「とても低い!」となったら,「そんな低い確率でしか起こり得ないことが起きちゃったのか…じゃあ、今回の(帰無)仮説間違ってるんじゃない?」という流れになるのです。

差がないという確率
ここでみなさんが疑問に思うのは,「なんでそんな面倒なことを?」ということですね。なぜ要因の効果がある確率をすなおに計算しないのでしょうか。

これは,「効果がある」状態を適切に定義できないことに起因します。たとえば,2群の平均値を比較する際に,要因の効果がある状態を考えてみましょう。2群に対してい,要因の効果があるということは,差があるということです。

でもこのとき,差が1でも,差が100でも,「差がある」ということに変わりありません。つまり,差があるパターンは1つに定まらないのです。これに対して,「差がない確率」は,「差がゼロである確率」であるため,必ず1つに定まるのです。それ以外には,差がないという状態はありえません。

3群に対する要因の効果も,同様に,要因の効果がゼロである場合には,3群すべての平均値が一致するときですので,やはり一意に状況が定まります。

このように,差がある状態は無限にあるので,その確率を計算することができず,一方で,差がない確率は定義できるので確率が計算できます。これが,わざわざ帰無仮説を立てる数学的な背景になります。

あり得ない確率
さて,じゃあいったい帰無仮説が成立する確率がどのくらいであれば,「あり得ない」と言っていいのでしょうか。この基準は,皆さんご存知の通り,「5%」です。でも実は,この基準に明確な理由はありません。

なんとなく,20個の中の1個を,1回で引き当てるのってなかなか無理だよね,ってことで納得してください。この5%という値を有意水準とよびます。でも,帰無仮説が正しい確率(対立仮説を採択した場合に,それが誤りである確率)でもあるので,危険率とも呼ばれます。

計算の結果得られた,帰無仮説が正しい確率を有意確率といいます。有意確率が有意水準を下回っていると,「効果がゼロである」とは言いにくい状況になってしまうので,おそらく「効果がある」と結論します。このことを,「統計的に有意な効果がある」あるいは「統計的な有意差がある」といいます。

ちなみに,一般には差がない確率が低いことは,それだけ自信を持って差があると言えることです。なので,確率が低いことは頑張って主張したくなります。そのため,有意水準には一般的に三段階のレベルが存在します。すなわち,5%,1%,0.1%です。それぞれの基準より低い有意確率が得られた場合に,「*%水準で有意差が得られた」みたいに表現することがあります。

有意確率は効果のゼロでないことを示す指標
最後に,有意確率について,教科書通りの釘を刺しておきましょう。有意確率は,「効果がゼロってことは考えられないよ」と発言するための数学的な背景を示す確率であって,効果そのものの大きさを示すものではありません。

つまり5%水準だろうと0.1%水準だろうと,効果の大きさに対しては直接的に言及できません。要因の効果の大きさは効果量という指標を用いて示すことが一般的です。

ただし,だからといって,有意確率と効果の大きさが関係ないわけではありません。一般に要因の効果が大きいと,有意確率は低くなります。つまり,有意な効果があると判断されやすくなります。ただし,他の要因も絡んできちゃうので,「有意確率=効果の大きさ」ではないわけです。

重要なことは,有意確率が5%だろうと,0.1%だろうと,「考察」の段階では同じ扱いをしましょう。有意は有意でしかなく,それ以上でもそれ以下でもないのです。

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初稿:2009年02月18日
改訂:2017年06月03日