心理学系大学院へ行こう

“心理学系大学院へ行こう”では、主に大学院入試対策向けの参考書や受験のための知識を紹介しています。卒論対策にも一読ください。 さらに, 研究者になるにあたって役立ちそうな記事も掲載しています。psychology_ganbaru

神経心理学コレクションシリーズ

**WEB版からの記事の移し替えですので,記事としては,おそらく6〜8年ほど前のものです**

医学書院から出ている、神経心理学コレクションのシリーズです。どんどん増えています。最近は単なる金集めにしか思えなくなってきました。良書とそうじゃないのが激しすぎます。基本的に、神経心理学以外の人が書いているやつはおもしろい。ずいぶん昔に読んでいるので、レビューが適当です。あしからず。

街を歩く神経心理学 2009 高橋伸佳 ★☆☆☆☆

街並失認、道順障害の本。どこにターゲットを絞っているのかが分からないが、学部生の卒論にはもってこい!な本といえます。しかし、知的興味は全くそそられないので★一つ。

地誌的障害の症例について、日本のものと海外のものと、しっかりと拾ってあり、その点はとても利用価値があると思います。が、如何せん読みにくいです。自身が地誌的障害について研究(ていうか卒論)書きたいな、興味あるな、という時の一冊目としては悪くないです。この本をもとに、原著論文を集めるのには最適な本です。

ただし、微妙に理論的なものを無意識にかぶせてきているので、そこに引っ張られないように注意しましょう。例えば、街並失認 VS 道順障害の対比や、旧知 VS 新規の対比です。これらは著者が仮定しているものであって、アプリオリに決定されているわけではありません。学部生が陥りやすい罠がごろごろ転がっている感じです。このへんを突き放して書いてくれていないので、お勧め度は低くなります。

ちなみに、「こぼれ話」はこぼれたままで拾わなくてよかったのに。と思うこと必至なオチのなさです。

視覚性認知の神経心理学 2010 鈴木匡子 ★☆☆☆☆

読みにくい!まとまっていない!とにかく様々な例が紹介されていますが、結局結論は出ず、何もわからずじまいで終わります。載せられている症例数は多いものの(38例)、記述の仕方が統一されていないのが残念。メモをそのまま売ってしまった感じです。編集者が悪いのかも。コラムなども、何それ、だから何?どこがいい話なの?という感じになってます。

内容としては、タイトル通り、視覚失認系の症例が羅列されております。同時失認、構成障害、半側無視、相貌失認、視覚性運動失調などなど…面白そうなものが並んでおるのですが、ただそれだけ。気をつけて使わないと誤解を招く用語がばんばん使われております。症状を名付けた時点で既に解釈が入っており、理論(つまり色眼鏡)ごしに現象を把握していることになります。きちんとそのような背景を説明した上で、症状を説明してくれれば問題がないのですが、そういった配慮に欠けています。一般読者に対しできるだけ正確でニュートラルな現象記述が欠けているという点で,オススメ度は★ひとつです。

眼と精神―彦坂興秀の課外授業 2003 彦坂興秀 ★★★★☆
頭頂葉 2006 酒田英夫 ★★★☆☆

ずいぶん前に読んだので詳細は覚えてません(※この記事自体,投稿時点より古いものを転載しています,念のため。若かりし頃の適当さを許して下さい)。神経生理学者の彦坂先生の本と、酒田先生の本。なので、神経心理学の入門書ではありません。だから、というべきなのか、面白いです。二つとも、山鳥&河村両先生(神経心理)との対話形式。

話の面白さで言うと、彦坂先生に軍配。対話だからということもありますが、話の内容は次々に飛んでいきます。ただ、幅広く,かつ深い話からは色々な示唆が得られるでしょう。あんまり覚えてないので内容に突っ込むのは控えます。

失語の症候学 2003 相馬 芳明, 田邉 敬貴 ★★★☆☆

CD付きです。さらに、CDの内容を書き起こしたものも付いています。これだけのために、買いましょう。とても良い教材になります。本の内容としては、他の本でいいでしょう。

失行 2008 河村 満, 田邉 敬貴, 山鳥 重 ★★★☆☆

DVD付きです。失語の症候学と同様に、これだけのために買いましょう。とても高いですが…。綺麗な失行はなかなかお目にかかれないので、結構貴重です。ただし、このビデオは物凄く古いやつです。一部音声なかったりします。発語失行のおばちゃんの唇がトラウマになります…。本の中身は著者の先生方の対談です。神経心理学の先生の考え方,というのを知るのにはいいのではないでしょうか。

タッチ 2001 岩村 吉晃 ★★★★★

このあたりの分野の教科書としてとても優れている本です。感動的にまとまっています。昔からの岩村先生のレビュー的論文をまとめたような内容なので、まとまっていないわけはないのですが、非常によい本です。触感覚とか触認知とかに興味ある人は是非。損しないです。